【メーカー研究者執筆】オイルシール漏れ要因まとめ
はじめに
当方はオイルシールメーカーで2010年から2023年までの約14年間 技術部に在籍し、数多くの開発/実験/調査を行い、オイルシールの漏れ要因や密封メカニズムを研究してきました。その知識・経験を活かし、本記事ではオイルシールの漏れ要因について詳しくまとめました。
オイルシールとは、回転運動する様々な機械・装置で使用され、内部のギヤ・軸受などの潤滑を保持するために欠かせない機能部品です。しかし、機械・装置を稼働する過程で、オイルシールからのオイル/グリース漏れなどの不具合が生じることがあります。
オイルシールの漏れに繋がる要因は多種多様であり、漏れ原因を特定するためには、実際に漏れの生じたオイルシール(できればシャフトとハウジングも)を回収し、見識者が詳細調査を行う必要があります。
本記事では、オイルシールの漏れ要因に関して、様々なオイルシールメーカーのカタログに記載されている内容よりも詳しくまとめました。漏れ要因が分からずに困っていたり、できる限り漏れにくいオイルシールの環境を構築したいなどの考えをお持ちの方にとって、ご参考となれば幸いです。
オイルシールの漏れ要因まとめ
オイルシール漏れに関する要因解析(FTA)を図1に示します。ここでは、”主リップからの漏れ”に対する要因をメインに解説します。

図1 オイルシール漏れに関する要因解析(FTA)
まず、オイルシールからの漏れ経路に関して、”主リップからの漏れ”と”外周部からの漏れ”に区別することができます(2次要因, 図2)。さらに、前者の”主リップからの漏れ”の発生要因について、以下の3要因に区別することができます(3次要因)。
要因1:主リップ先端とシャフトの接触異常
要因2:シャフトに対する主リップ追随異常
要因3:主リップ先端部油膜の流れ異常
上記要因1~3の詳細とその発生要因(4次要因)について、以下に解説します。

図2 オイルシールの漏れ経路
要因1:主リップ先端とシャフトの接触異常について
要因1:主リップ先端とシャフトの接触異常について解説します。主リップ先端とシャフトとの間に接触異常をもたらす静的な故障モードであり、発生要因として、以下の11要因が挙げられます。同故障モードの特徴として、静的な故障モードであるためシャフトの回転有無に関わらず、主リップ先端とシャフトとの間に物理的な隙間が生じることで漏れに至ります(※ただし、回転中に漏れることが多い)。
(1) クラック(割れ)
(2) 異物噛込み
(3) 条痕
(4) 面あれ
(5) ブリスタ
(6) 緊迫力の喪失
(7) しめしろの喪失
(8) シャフト摩耗の進行
(9) 主リップやシャフトへの固着物
(10) 主リップやシャフトの損傷・変形
(11) 主リップの反転
要因2:シャフトに対する主リップ追随異常について
要因2:シャフトに対する主リップ追随異常について解説します。シャフトに対する主リップの追随異常をもたらす動的な故障モードであり、発生要因として、以下の7要因が挙げられます。同故障モードの特徴として、動的な故障モードであるためシャフトの回転時に限り、主リップ先端とシャフトとの間に物理的な隙間が生じることで漏れに至ります(※基本的に停止中は漏れない)。
(1) 主リップのゴム硬化
(2) 必要最低緊迫力を下回る
(3) 必要最低しめしろを下回る
(4) 偏心量の過大
(5) 回転数(周速)の過大
(6) スティックスリップの発生
(7) 衝撃・振動の発生
要因3:主リップ先端部油膜の流れ異常について
要因3:主リップ先端部油膜の流れ異常について解説します。主リップ先端とシャフトの間に介在する油膜流れに異常をもたらす動的な故障モードであり、発生要因として、以下の2要因が挙げられます。同故障モードの特徴として、上記1 ,2のように接触・追随異常といった物理的な隙間が生じるものではありません。また、動的な故障モードであるためシャフトの回転時に限り、油膜の流れが大気側(=漏れ方向)に作動することで漏れに至ります。
(1) ポンプ量低下
(2) 軸(シャフト)にリード有
最後に
本記事では、オイルシールの漏れ要因まとめについて解説しました。今回、オイルシール漏れに関する要因解析(FTA)について、4次要因までの記載に留めています。本来は5次要因→6次要因…とさらに深掘りをしていくことで根本原因を追究します。
上述した各々の発生要因(4次要因)について、リンク付きのものは詳細記事をまとめていますので、詳しく知りたい発生要因がありましたらリンク先より記事をご参照下さい。現時点でリンクの無い発生要因につきましては、今後記事を掲載していく予定であり、都度配信していきます。お楽しみに!!
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【記事】オイルシールの緊迫力の重要性 | MOKUオイルシール
【記事】オイルシールの密封メカニズム | MOKUオイルシール
本記事内容をご覧いただき、興味を持たれたり、『もっと詳細を知りたい』等と感じましたら、お気軽にお問い合わせよりご連絡をお願いいたします。
【ご参考1】熱電対付きオイルシールについて
当方では、オイルシールの主リップ先端温度を直接的に測定することができる”熱電対付きオイルシール”の製作を請け負っています。お客様で保有するオイルシールを当方へ送付いただき、熱電対を主リップ先端のゴム中に加工し、納品とさせていただきます。オイルシールのメーカーは問いません(どのメーカーでも対応いたします)。熱電対の+/-を表記した状態で納品いたしますので、お客様では熱電対をロガーに接続いただくだけで主リップ先端温度の測定が可能となります。
【ご参考2】オイルシールの現品調査について
当方では、オイルシールの現品調査を請け負っています。お客様より調査対象となるオイルシール(希望される場合は軸も)を送付いただき、詳細調査を実施し、密封性を有する状態かを考察(漏れが発生している場合は漏れ原因を推察)して調査レポートを提出させていただきます。オイルシールのメーカーは問いません(どのメーカーでも対応いたします)。現品調査を実施し、オイルシールメーカーの研究部/品質保証部と同様の視点で見解・考察を提示させていただきます。