【メーカー研究者執筆】急加減速用オイルシールの漏れ原因
急加減速用オイルシールとは
オイルシールは回転運動する機械・装置のすき間に装着され、内部の潤滑保持や外部からの異物浸入防止の役割を担っています。一言で機械・装置といっても、自動車や減速機、ロボット、製鉄所の圧延設備、建設機械、農業機械などなど用途は様々です。各々の機械・装置で使用条件は大きく異なり、例えば産業用ロボットの関節部に使用されているサーボモータでは、軸(シャフト)が急加速・急減速の使用条件となることがあります。
急加速・急減速条件とは、どのレベルの加速・減速を指すのかを説明すると、例えば自動車用エンジンでは停止状態から回転数6000rpmに到達するに少なくても数秒はかかりますが、サーボモータでは停止状態から6000rpmまでを0.1s程度で加速します。減速も同様にサーボモータでは6000rpmから停止状態までを0.1s程度で減速します。サーボモータの方が自動車用エンジンよりもかなり急加速・急減速となっていることが分かるかと思います。オイルシールメーカーによっては、オイルシールの急加減速仕様に該当する使用条件として『角加速度〇〇rad/s^2以上』と定義付けを行っている場合もあります。
本記事では、急加減速用オイルシールの漏れ原因とその対策について解説します。
急加減速条件下の漏れ原因(スティックスリップ)
オイルシールを急加減速条件下で使用すると、急加減速条件下でない場合と比較して漏れが生じるリスクは上昇します。それは、スティックスリップが生じやすくなることが原因と考えられます。
スティックスリップの発生は、リップ先端と軸(シャフト)間の摩擦係数の変動が大きく影響します。急加減速条件下においては、リップ先端と軸(シャフト)間の油膜厚さの変動が頻繁に生じることで摩擦係数も変動するため、スティックスリップの発生を助長してしまう形となります。
実際に、サーボモータを使用した過酷耐久試験において、急加減速条件下では漏れが発生したことからリップの状態調査を行った結果、スティックスリップの発生痕が認められています。さらに、漏れが発生したオイルシールをそのまま使用し、急加減速ではない条件下(※最高回転数は合わせる)で追加試験を行った結果、漏れは未発生となっています。以上より、急加減速条件下ではスティックスリップの影響によって漏れが生じるリスクは高くなることが立証されています。
急加減速条件下での漏れ対策
急加減速条件下での漏れ対策としては、スティックスリップの抑制が必要となります。別記事(下リンク)にて詳細を解説していますが、オイルシールのスティックスリップの発生対策には以下4項目があります。
1. 摩擦係数を低下させる
2. 緊迫力を低下させる
3. リップ粘性を上昇させる
4. リップ剛性を上昇させる
上記4項目の対策を適切に行うことによって、急加減速条件下でのスティックスリップの発生を抑止することができ、安定した機械・装置の稼働に貢献することができます。
【記事】オイルシールのスティックスリップを抑制する方法 – MOKUオイルシール
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本記事内容をご覧いただき、興味を持たれたり、『もっと詳細を知りたい』等と感じましたら、お気軽にお問い合わせよりご連絡をお願いいたします。
【ご参考1】熱電対付きオイルシールについて
当方では、オイルシールの主リップ先端温度を直接的に測定することができる”熱電対付きオイルシール”の製作を請け負っています。お客様で保有するオイルシールを当方へ送付いただき、熱電対を主リップ先端のゴム中に加工し、納品とさせていただきます。オイルシールのメーカーは問いません(どのメーカーでも対応いたします)。熱電対の+/-を表記した状態で納品いたしますので、お客様では熱電対をロガーに接続いただくだけで主リップ先端温度の測定が可能となります。
【ご参考2】オイルシールの現品調査について
当方では、オイルシールの現品調査を請け負っています。お客様より調査対象となるオイルシール(希望される場合は軸も)を送付いただき、詳細調査を実施し、密封性を有する状態かを考察(漏れが発生している場合は漏れ原因を推察)して調査レポートを提出させていただきます。オイルシールのメーカーは問いません(どのメーカーでも対応いたします)。現品調査を実施し、オイルシールメーカーの研究部/品質保証部と同様の視点で見解・考察を提示させていただきます。