オイルシールのブリスタ発生メカニズムと対策
ブリスタとは
ブリスタとは、オイルシールを使用する過程で生じることのある主リップ先端周辺の”ゴム膨れ”のことです。ブリスタはオイルシールの密封性能を低下させる要因の一つであり、ブリスタが成長する(=サイズが大きくなる)と、主リップ先端とシャフトとの間に接触異常をもたらすことで漏れが発生する可能性があります(図1)。
基本的に、ブリスタは高温環境下の使用で発生することが多いですが、それ以外の環境下でも発生することがあります。本記事では、ブリスタの発生メカニズムとその対策について解説します。

図1 ブリスタ
ブリスタの発生メカニズム
ブリスタ発生の主原因として、以下の2つがあります。
1. 主リップ先端ゴム中への気化オイルの浸入と凝集
2. 主リップ先端ゴム中の個体添加物とポリマーとの剥離
これら2つのうち、一般的に認知されているのは1.であり、高温下にて発生するモードです。しかし、あまり認知されていない2.では比較的低温下でもブリスタが発生するモードです。
両者の発生メカニズム詳細について、以下に解説します。
1. 主リップ先端ゴム中への気化オイルの浸入と凝集
主リップ先端ゴム中への気化オイルの浸入と凝集によって、ブリスタが発生するメカニズムは以下となります。
1) オイルシールを運転する過程で主リップ先端周辺温度が高くなる
2) 主リップ先端周辺高温となることで密封媒体であるオイルの一部が気化する
3) 気化したオイルが主リップのカット面またはしゅう動面より浸入する
4) 主リップのバレル面付近まで浸入して凝集し、運転停止などで冷却される
5) 気化したオイルが冷却されることで液体に戻る
6) 主リップのバレル面で膨れが生じ、ブリスタとなる
7) 上記1)~6)を繰り返し、ブリスタが成長する(=サイズが大きくなる)
上記メカニズムで発生するブリスタの最大の特徴は、ブリスタ内にオイルが入っていること、及びブリスタが硬化している(ことが多い)ことです。
ゴム中にオイルが溜まることで生じるブリスタであることから、ブリスタを割くとオイルが出てきます。また、主リップ先端周辺温度が高い環境下で使用されているため、主リップ先端ゴムが硬化していることが多く、ブリスタも硬化しています。硬化したブリスタが成長する(=サイズが大きくなる)と、主リップ先端とシャフトとの間に接触異常をもたらす要因となり漏れが発生します。
ブリスタは主リップのバレル面の主リップ先端近傍で発生します。それは、バレル面のゴム表面にはスキン層という気体透過性が低い薄膜が存在することで、ゴム中に侵入した気化オイルがスキン層を通過できずバレル面付近で凝集するためです(図2)。

図2 主リップ先端ゴム中への気化オイルの浸入と凝集
本ブリスタの発生対策として、以下があります。
●主リップ先端周辺温度を抑制する(主リップの摩擦による発熱や周辺環境温度の低減)
●オイルの種類変更(気化しにくいオイルの選定)
●ゴム材の変更(シリコンゴムのように気体透過性が高いゴムは、そもそもブリスタは生じない)
2. 主リップ先端ゴム中の個体添加物とポリマーとの剥離
主リップ先端ゴム中の個体添加物とポリマーとの剥離によって、ブリスタが発生する推定メカニズムは以下となります。
1) オイルシールを運転する過程で主リップ先端ゴム中に応力が負荷される(引っ張り/ねじり/摩擦などによる応力)
2) 主リップ先端ゴム中に点在する個体添加剤(フィラー)とポリマーとの間に亀裂が生じる
3) 亀裂を起点にゴム中に空間が生まれる…ブリスタの生成
4) 上記2), 3)をゴム中の複数個所で繰り返し、空間が多発する…ブリスタの多発
上記メカニズムで発生するブリスタの最大の特徴は、ブリスタ内にオイルが入っていないこと、及びブリスタが硬化していない(ことが多い)ことです。
ゴム中にオイルが溜まるといったメカニズムではないため、ブリスタを割いても何も出てきません。また、主リップ先端周辺温度に依存することなく発生するブリスタであるため、主リップ先端ゴムが硬化していない/いる場合があり、ブリスタも硬化していない/いる場合があります。硬化していないブリスタであれば、ブリスタがシャフトと接触した場合であってもブリスタが容易に摩耗するため、主リップ先端とシャフトとの間に接触異常をもたらす要因とはならず漏れは発生しません。対して、硬化したブリスタであれば、ブリスタがシャフトと接触した場合に主リップ先端とシャフトとの間に接触異常をもたらす要因となるため漏れが発生します。
ブリスタは主リップのバレル面で発生します。また、ブリスタのサイズは個体添加剤(フィラー)のサイズの影響を受け、サイズの大きい個体添加剤(フィラー)とポリマーとの間に亀裂が生じると、ブリスタのサイズも大きくなる傾向があります(図3)。

図3 主リップ先端ゴム中の個体添加物とポリマーとの剥離
本ブリスタの発生対策とブリスタサイズの低減策として、以下があります。
●個体添加剤(フィラー)とポリマーとの化学的結合力アップ…ブリスタの発生対策
●個体添加剤(フィラー)のサイズ低減…ブリスタサイズの低減策
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【記事】オイルシールの密封メカニズム – MOKUオイルシール
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【ご参考1】熱電対付きオイルシールについて
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