【メーカー研究者執筆】オイルシールのポンプ量増加方法

オイルシールのポンプ量減少の要因解析(FTA)

基本的に「ポンプ量が多い=高い密封性能を有する」と考えるため、オイルシールのポンプ量が増加する環境・条件を構築することで漏れのリスクを軽減することができます。
それでは、具体的にポンプ量を増加するにはどうすればよいのでしょうか?
ここで、”ポンプ量低下”を故障モードと捉えた場合の要因解析(FTA)を図1に示します。

図1 ポンプ量低下の要因解析(FTA)

図1から分かる通り、ポンプ量が低下してしまう1次要因として以下の3要素があります。
1. オイルシール要因(青枠)
2. シャフト要因(緑枠)
3. 周辺環境・仕様条件要因(ピンク枠)

オイルシールのポンプ量増加の方法

図1の1次要因に対して、以下10項目の改善を施すことによりポンプ量は増加します。
(1) オイルシールの主リップ緊迫力を下げる
(2) 主リップ先端の面圧分布が崩れないよう保持する
(3) 主リップねじの機能を保持する(ねじ付きオイルシールの場合に限る)
(4) 主リップ摩耗幅を適度に保持する(ねじ無しオイルシールの場合に限る)
(5) 主リップしゅう動面の粗さを適度に保持する
(6) 軸(シャフト)の表面粗さを適度に保持する
(7) 軸(シャフト)の摩耗進行を抑制する
(8) 軸(シャフト)のリードを抑制する
(9) 油粘度を高くする
(10) 周速を上げる

上記、10項目を改善するための根本となる方法を2次要因以降に記載しています。どの1次要因を改善することで、より多くのポンプ量増加の効果が見込めるのか、アプリ毎に検討を行い決定していきます。
また、対策を行うことで生じる背反事象を考慮しておくことも重要となります(例えば、主リップ緊迫力を下げることによる耐久性能への影響など)。

ポンプ量最大化の開発事例

参考までに、当方が執筆したポンプ量最大化の開発事例をご紹介します(以下の記事参照)。鉄鋼圧延機向け軸受用オイルシールのポンプ量を最大化(440%増加)することによって、従来比で漏れ量を70%以上低減し、さらにリップ温度を30%低減することを達成した事例です。

●鉄鋼圧延機用4列円すいころ軸受オイルシールのリップ温度低減技術(月間トライボロジー 2022年3月号)
【記事 ※申し込み要】バックナンバー2022年 | 月刊トライボロジー
【関連記事(JTEKT社) ※無料】鉄鋼圧延機向け4列円すいころ軸受用オイルシールの開発完了 ~密封性を高め、軸受寿命向上に貢献~ | Koyo(ジェイテクト)

関連記事

以下の関連記事についてもご参照下さい。
【記事】【メーカー研究者執筆】オイルシール漏れ要因まとめ – MOKUオイルシール
【記事】オイルシールのスティックスリップを抑制する方法 | MOKUオイルシール
【記事】オイルシールの密封メカニズム | MOKUオイルシール
【記事】【メーカー研究者執筆】オイルシールの緊迫力とは – MOKUオイルシール

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【ご参考1】熱電対付きオイルシールについて

当方では、オイルシールの主リップ先端温度を直接的に測定することができる”熱電対付きオイルシール”の製作を請け負っています。お客様で保有するオイルシールを当方へ送付いただき、熱電対を主リップ先端のゴム中に加工し、納品とさせていただきます。オイルシールのメーカーは問いません(どのメーカーでも対応いたします)。熱電対の+/-を表記した状態で納品いたしますので、お客様では熱電対をロガーに接続いただくだけで主リップ先端温度の測定が可能となります。

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【ご参考2】オイルシールの現品調査について

当方では、オイルシールの現品調査を請け負っています。お客様より調査対象となるオイルシール(希望される場合は軸も)を送付いただき、詳細調査を実施し、密封性を有する状態かを考察(漏れが発生している場合は漏れ原因を推察)して調査レポートを提出させていただきます。オイルシールのメーカーは問いません(どのメーカーでも対応いたします)。現品調査を実施し、オイルシールメーカーの研究部/品質保証部と同様の視点で見解・考察を提示させていただきます。

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