【メーカー研究者執筆】オイルシールの緊迫力とは
緊迫力とは
オイルシールは、密封対象物であるオイルやグリース、ダストなどを漏らさずに密封することが役割であり、主リップ先端を回転運動するシャフトに押し当てながら(=しゅう動しながら)密封します。その押し当てる力(荷重)のことを「緊迫力」といい、オイルシール性能を語る上では必ず耳にするオイルシール専門用語です(図1)。
単位は”N(ニュートン)”で表され、主リップ緊迫力の値はオイルシールの耐久性能(長期的な密封力)と密封性能(使用環境への適用力)に直結し、オイルシールを設計する上での最重要検討項目の一つです。ここでは、主リップ緊迫力の重要性について解説します。

図1
主リップ緊迫力の耐久性能・密封性能への影響
上記にて、主リップ緊迫力はオイルシールの耐久性能と密封性能に直結すると説明しましたが、その詳細を以下に解説します。
主リップ緊迫力の”耐久性能”への影響
耐久性能とは、「長期的な密封力」のことです。
オイルシールの耐久性能を見極める指標の一つとして必要最低緊迫力というものがあります。オイルシールを長期使用する過程で下回ると漏れが発生するリスクが高くなる緊迫力値のことです。必要最低緊迫力は、使用環境(ユニットの偏心量など)によって変動します。オイルシールに要求される耐久性能を満足するため、長期使用の過程で主リップの摩耗/へたりが進行した場合であっても必要最低緊迫力を維持できるよう考慮し、主リップ緊迫力の初期設定値を決定する必要があります。
初期設定値が低すぎると、運転時における主リップ摩耗/へたりの進行によって必要最低緊迫力を維持できなくなり、耐久性能を満足することができません。また、反対に初期設定値が高すぎると、主リップ異常摩耗によるポンプ量低下/条痕の発生や、発熱大によるへたり/クラック/ブリスタの発生などによって耐久性能を満足することができません。
以上より、主リップ緊迫力の初期設定値はオイルシールの耐久性能を満足する上で非常に重要な検討項目となります。
※参考までに、オイルシールの耐久性能を見極める指標として、上記の必要最低緊迫力以外では以下があります。
1. 必要最低しめしろ
2. 限界ゴム硬度
3. 限界摩耗幅
主リップ緊迫力の”密封性能”への影響
密封性能とは、「使用環境への適応力」のことです。
オイルシールの密封性能を見極める指標の一つとして耐振動/耐衝撃性があり、主リップ緊迫力はオイルシールの耐振動/耐衝撃性に大きく影響します。
基本的に、主リップ緊迫力を上げることで耐振動・衝撃性は向上しますが、緊迫力構成比(ゴム成分/ばね成分の比率)によっても耐振動/耐衝撃性は大きく変動することから、これらを考慮して主リップ緊迫力を決定する必要があります。
主リップ緊迫力の設定を誤ると、ユニットにて振動/衝撃が生じた際、主リップ先端がシャフトの振れに追随できずに漏れが発生するリスクが高まります。
以上より、主リップ緊迫力はオイルシールの密封性能を満足する上で非常に重要な検討項目となります。
※参考までに、オイルシールの密封性能を見極める指標として、上記の耐振動/耐衝撃性以外では以下があります。
1. ポンプ量
2. 耐偏心追随性
3. 耐圧性
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【記事】【メーカー研究者執筆】オイルシール漏れ要因まとめ – MOKUオイルシール
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【記事】【メーカー研究者執筆】オイルシールのポンプ量増加方法 – MOKUオイルシール
【記事】オイルシールの密封メカニズム | MOKUオイルシール
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【ご参考1】熱電対付きオイルシールについて
当方では、オイルシールの主リップ先端温度を直接的に測定することができる”熱電対付きオイルシール”の製作を請け負っています。お客様で保有するオイルシールを当方へ送付いただき、熱電対を主リップ先端のゴム中に加工し、納品とさせていただきます。オイルシールのメーカーは問いません(どのメーカーでも対応いたします)。熱電対の+/-を表記した状態で納品いたしますので、お客様では熱電対をロガーに接続いただくだけで主リップ先端温度の測定が可能となります。
【ご参考2】オイルシールの現品調査について
当方では、オイルシールの現品調査を請け負っています。お客様より調査対象となるオイルシール(希望される場合は軸も)を送付いただき、詳細調査を実施し、密封性を有する状態かを考察(漏れが発生している場合は漏れ原因を推察)して調査レポートを提出させていただきます。オイルシールのメーカーは問いません(どのメーカーでも対応いたします)。現品調査を実施し、オイルシールメーカーの研究部/品質保証部と同様の視点で見解・考察を提示させていただきます。