オイルシールの面あれ発生原因と対策

オイルシールの面あれとは

オイルシールを使用している過程で、主リップしゅう動面に面あれが発生することがあります。面あれとは、主リップしゅう動面にホール(クレーター)が複数個所に点在する摩耗形態のことを示します(図1)。面あれはオイルシールの密封性能を低下させる要因の一つであり、面あれが生じるとその箇所は軸(シャフト)と接触しなくなることで、主リップ先端と軸(シャフト)との間に接触異常をもたらし、漏れが発生する可能性があります。
本記事では、面あれの発生原因とその対策について解説します。

図1 面あれ

面あれの発生原因と対策

面あれの発生原因として、主に以下の3つがあります。
 1. 異物の噛み込み
 2. 潤滑不良

 3. ゴム材の固体添加剤のサイズ大
上記の発生原因のうち、1.と2.は主にオイルシールの使用環境が影響して生じるモードですが、3.はオイルシールのゴム材配合設計によるモードです。これらの詳細について、以下に解説します。

1. 異物の噛み込み

オイルシールの主リップしゅう動面に異物が噛み込むことによって、面あれが生じることがあります。
メカニズムとして、まずは運転中に異物が主リップしゅう動面に噛み込むことで、しゅう動面には異物サイズのホール(クレーター)が生じます。その後、軸の回転に伴って噛み込んだ異物が円周方向に移動することがあれば、ホール(クレーター)ではなく筋状の凹みとなるため、面あれではなく条痕が生じることになります。それに対して、噛み込んだ異物が円周方向に移動せず、何らかのタイミングで脱落することがあれば、そこにはホール(クレーター)が残る形となるため面あれとなります。
※異物が脱落せず、噛み込んだ状態を最後まで維持し続けることもあります。

異物噛み込みの対策としては以下があります。
 ●周辺環境の改善(大気側/ユニット内部)…異物量の低減
 ●
リップ構成の変更(補助リップ/保護リップなど追加)…主リップしゅう動面への異物到達量の低減
 ●主リップの設計変更(カット角度/緊迫力/ゴム材など)…異物噛み込み&摩耗粉の発生対策
 ●軸の設計変更(材質/硬度)…摩耗粉の発生対策


また、異物の発生源に関しては、別記事『オイルシールの条痕発生原因と対策』で以下2点について詳しく解説しているのでご参照下さい。
 (1) 大気側(外部)または密封側(ユニット内部)からの異物の噛み込み
 (2) オイルシールのゴム摩耗粉、シャフトの金属摩耗粉の噛み込み

2. 潤滑不良

オイルシールの主リップしゅう動面に潤滑不良が生じることによって、面あれが生じることがあります。
潤滑不良とは、主リップしゅう動面と軸(シャフト)の間に介在する油膜厚さが無いまたは薄くなることであり、ストライベック曲線でいう混合潤滑や境界潤滑に該当します(図2)。主リップしゅう動面の中で油膜が無いまたは薄い箇所ができると摩擦係数μは上昇し、主リップしゅう動面と軸(シャフト)が滑らかにしゅう動することができないことでしゅう動面に凹凸(=面あれ)が生じるものと考えられます。

潤滑不良対策(=油膜厚さアップ)の一例としては以下があります。
 ●オイルシール使用条件の改善(圧力低減、オイル粘度アップ、周速アップなど)
 ●主リップの設計変更(緊迫力/バレル角度/ゴム材など)
 ●軸の設計変更(表面粗さ/リード)

図2 ストライベック曲線

3. ゴム材の固体添加剤のサイズ大

ゴム材の配合設計として、固体添加剤のサイズが大きいことによって、面あれが生じる可能性があります。
添加剤とは、ゴムの強度・潤滑性・耐久性・加工性などの性能を向上させる目的で添加する物質であり、各種ゴム材には複数種類の添加剤が付与されています。その中には固体添加剤があり、オイルシールとして加硫成形した後にも、ゴム材の中で当初の形状をそのまま維持しているものがあります。
オイルシールを運転している際、主リップしゅう動面に上記固体添加剤が現れることが当然あります。その後、摩耗の進行などによって同添加剤が主リップしゅう動面より脱落すると、同添加剤のサイズと同等のホール(クレーター)が生じることで面あれとなります。

固体添加剤による面あれ対策としては以下があります。
 ●固体添加剤とポリマーとの化学的結合力アップ…脱落の発生対策
 ●固体添加剤のサイズ低減…面あれサイズの低減策

関連記事

以下の関連記事についてもご参照下さい。
【記事】【メーカー研究者執筆】オイルシール漏れ要因まとめ – MOKUオイルシール
【記事】オイルシールの条痕発生原因と対策 – MOKUオイルシール
【記事】オイルシールの専門用語一覧まとめ – MOKUオイルシール

本記事内容をご覧いただき、興味を持たれたり、『もっと詳細を知りたい』等と感じましたら、お気軽にお問い合わせよりご連絡をお願いいたします。

【ご参考1】熱電対付きオイルシールについて

当方では、オイルシールの主リップ先端温度を直接的に測定することができる”熱電対付きオイルシール”の製作を請け負っています。お客様で保有するオイルシールを当方へ送付いただき、熱電対を主リップ先端のゴム中に加工し、納品とさせていただきます。オイルシールのメーカーは問いません(どのメーカーでも対応いたします)。熱電対の+/-を表記した状態で納品いたしますので、お客様では熱電対をロガーに接続いただくだけで主リップ先端温度の測定が可能となります。

【ご参考2】オイルシールの現品調査について

当方では、オイルシールの現品調査を請け負っています。お客様より調査対象となるオイルシール(希望される場合は軸も)を送付いただき、詳細調査を実施し、密封性を有する状態かを考察(漏れが発生している場合は漏れ原因を推察)して調査レポートを提出させていただきます。オイルシールのメーカーは問いません(どのメーカーでも対応いたします)。現品調査を実施し、オイルシールメーカーの研究部/品質保証部と同様の視点で見解・考察を提示させていただきます。