グリースの密封メカニズム(ポンプ作用有無)
ポンプ作用とは
他の記事でもご紹介しましたが、オイルシールは主リップ先端とシャフトとの間に形成する油膜において、ポンプ作用と呼ばれる一方向のオイルの流れが生じることで、流体であるオイルなどを密封しています。大気側に漏れ出ようとするオイルを押し戻す力が働いており、油膜によって主リップ先端の潤滑を保持しながらポンプ作用による密封性を確保しています(図1)。ポンプ作用を定量化した値をポンプ量と呼び、ポンプ量の多い/少ないは主リップのわずかな設計差によって大きく変動します。
流体であるオイルなどの場合は、上記ポンプ作用によって密封していることとなりますが、半固体状であるグリースの場合においては、オイル同様のポンプ作用による密封メカニズムが成立するのでしょうか?
本記事では、グリースの密封メカニズム(ポンプ作用の有無)について解説します。

図1
グリースの構成と特徴
グリースの密封メカニズムを解説する前に、グリースの構成と特徴について説明します。グリースは以下3つの主要成分によって構成されています。
① 基油 …ベースオイルともいい、潤滑を担うものであり鉱物油や合成油が使用されます(グリース全体の80~90%を占める)。
② 増ちょう剤 …繊維(網目構造)の固体であり、この繊維が毛管力によって油を抱き込みグリースの構造を維持しています(グリース全体の3~15%を占める)。
③ 添加剤 …グリース性能を改善・向上させるために各種の添加剤が使用されています(グリース全体の0.5~10%を占める)。
グリースは、増ちょう剤が基油を抱き込み、グリースの構造を維持しています。
また、グリースの特徴として、静止している時は半固体状のままですが、稼働することで流動し、更にせん断速度が大きくなると基油に近い状態まで流動化します。そして、また静止することで半固体状に戻ります。グリース潤滑では、適度に基油がしみ出す(分離する)ことが必要であり、分離が早すぎても油分が無くなることでグリースが硬化して潤滑性を損なうこととなります。
グリースの密封メカニズム(ポンプ作用の有無)
上述した構成・特徴を有する半固体状のグリースについて、オイルと同様のポンプ作用による密封メカニズムは成立するのでしょうか?その答えは、グリースのちょう度(硬さ)によって異なります。
●ちょう度が一定より高い(柔らかい):ポンプ作用が成立する
●ちょう度が一定より低い(硬い):ポンプ作用が成立しない
※ちょう度とは、グリースの硬さの指標であり、混和ちょう度の値によって各JIS・NLGIちょう度番号に区分されます(表1)。
表1
硬さ | JIS ちょう度番号 | NLGI ちょう度番号 | 混和ちょう度 (25℃) | 外観 |
柔![]() 硬 | 000号 | №000 | 445~475 | 半流動体 |
00号 | №00 | 440~430 | 半流動体 | |
0号 | №0 | 355~385 | 軟質 | |
1号 | №1 | 310~340 | やや軟質 | |
2号 | №2 | 265~295 | 普通 | |
3号 | №3 | 220~250 | やや硬質 | |
4号 | №4 | 175~205 | 硬質 |
ちょう度が一定より高い(柔らかい)と、半固体状のグリースの流動性が十分に確保されることでオイル同様にポンプ作用が発生します。その際、基油(ベースオイル)だけでなく増ちょう剤も、ポンプ作用によって一方向へ流れる現象が認められます。
その反面、ちょう度が一定より低い(硬い)と、グリースに流動性がほぼなくポンプ作用も認められません。
よって、選定するグリースのちょう度によって、オイルシールの密封メカニズムは異なることとなります。ちょう度が一定より高い(柔らかい)場合はポンプ作用をアップすることで密封性能の向上を見込むことはできますが、ちょう度が一定より低い(硬い)場合にはポンプ作用をアップさせても密封性能に寄与しません。選定するグリースに合わせたオイルシール設計を行う必要性があります。
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