圧力負荷がオイルシールに与える影響

圧力負荷の形態

ユニットに装着したオイルシールに対して、ユニット内部より圧力が負荷されることがあります。圧力負荷の形態はユニットの種類によって様々であり、油圧ポンプのように機構として0.6MPa(600kPa)程度の非常に大きなサージ圧が強制的に負荷されるものや、減速機や自動車のエンジンのように閉ざされた空間内の温度が徐々に変化することでボイルシャルルの法則に従い±30kPa以下の範囲内で圧力が変動するもの、さらにブリーザー弁といった圧力調整装置が設置されることで数kPa以上の圧力は負荷されないものなどがあります。
圧力が負荷される時間もユニットによって様々であり、油圧ポンプのサージ圧のように瞬間的に高圧が負荷された後に大気圧まで一気に低下するものや、減速機や自動車のように周辺温度の上昇/下降に伴いゆっくり圧力が変動するため、長時間一定圧が負荷されるものなどがあります。
本記事では、オイルシールに上記圧力が負荷されることによって、どのような影響が生じるのかを解説します。

圧力負荷がオイルシールに与える影響

ここでは、ユニットに装着したオイルシールに対して、ユニット内部より正圧が負荷された場合のことを考えます。ここで、オイルシールに圧力(正圧)が負荷された時の応力関係を図1に示します。
正圧が負荷された場合、主リップ全体に応力が負荷される形となり、応力全体としては主リップをシャフトに押し付けるベクトルが支配的であるため、結果として緊迫力は増加することとなります。

図1 圧力(正圧)負荷時の応力関係

ここで、オイルシールに圧力(正圧)が負荷された場合の影響一覧を図2に示します。最大で7次要因まで記載しており、図の見方の一例は以下となります。
 (1)「圧力負荷(正圧)」が生じたことによる1次影響の一つとして、「緊迫力の上昇」が生じる。
 (2)「緊迫力の上昇」が生じたことによる2次影響の一つとして、「シール・軸の発熱」が生じる。
 (3)「シール・軸の発熱」が生じたことによる3次影響の一つとして、「ゴムの硬化劣化」が生じる。
 (4)「ゴムの硬化劣化」が生じたことによる4次影響の一つとして、「リップのへたり」が生じる。
 (5)「リップのへたり」が生じたことによる5次影響の一つとして、「しめしろの低下」が生じる。
 (6)「しめしろの低下」が生じたことによる6次影響の一つとして、「シール密封性能低下」が生じる。

図2 圧力(正圧)負荷が及ぼす影響一覧

図2の通り、オイルシールに圧力(正圧)が負荷された際の影響は数多くありますが、色分けで記載している通り、圧力(正圧)負荷による最終地点(不具合)としては以下の3つに分類されます。
 (1) シール密封性能低下
 (2) シール抜け(=漏れ)
 (3) ユニットの故障/効率低下

また、サージ圧負荷(正圧)のように頻繁に圧力変動が生じる場合は、通常の圧力負荷(正圧)には見られない特異モードとして、リップ摩耗形態にR摩耗/2段摩耗が生じることがあります。同摩耗形態の発生によってポンプ量低下~密封性能低下に繋がるリスクがあります。

圧力(正圧)負荷によって必ずしも上記3つの最終地点(不具合)に到達するとは限りませんが、オイルシールに圧力が負荷されることによるメリットはありません。一般的に、耐圧シールを除いて30kPa以下をシール機能を維持することができる推奨値としているオイルシールメーカーが多いですが、30kPa以下の圧力負荷であっても不具合リスクは高まるため、圧力は軽微であるに越したことはありません。

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