軸(シャフト)の摩耗によるオイルシール漏れへの影響
軸摩耗とは
オイルシールを使用する過程で、軸表面のリップしゅう動部が摩耗する(へこみが生じる)ことがあり、これを軸摩耗といいます(図1)。軸摩耗が未発生であれば、リップがしゅう動していない軸表面と比較しても、若干表面の見た目が変化する(光沢具合いが異なる)程度であり、リップしゅう動部の軸表面に触れても特に違和感はありません。それに対して10~20μm程度の軸摩耗が発生した場合は、見た目として濃い(=はっきりとした)リップしゅう動痕が認められるとともに、摩耗箇所に触れるとへこみ部に爪が引っ掛かるため違和感を感じます。
軸摩耗はオイルシールの密封性能を低下させる要因の一つであり、主リップ先端と軸との接触異常を引き起こしたり、主リップのポンプ量が低下することによって漏れが発生する可能性があります。
軸摩耗は、主に環境起因による異物が主リップしゅう動面に噛み込み、その状態で軸が回転することによって発生します。それに加え、主リップ緊迫力やゴム硬度、さらに軸表面の硬度などの影響によっても発生することがあります。
本記事では、軸摩耗の発生原因について解説します。

図1 軸摩耗
軸摩耗の発生原因
軸摩耗の発生原因として、主に以下の3つがあります。
1. 異物の噛み込み
2. 主リップのゴム硬度または緊迫力が高い
3. 軸表面の硬度が低い
これら3つの発生原因について、詳細を以下に解説します。
1. 異物の噛み込み
主リップしゅう動面への異物の噛み込みによって軸摩耗が発生するリスクが高まります。異物は、主に大気側(=外部側)または密封側(=ユニット内部側)からオイルシールへ到達します。ここで、異物の噛み込み時における軸摩耗の発生有無、及び発生した場合の進行レベルに関しては、主に以下3点の影響を受けます。
① 異物の量
② 異物のサイズ
③ 異物の硬度
①について、当然ですが、主リップしゅう動面に噛み込む異物量が多ければ、その分軸摩耗の発生リスクは高くなります。基本的に、主リップ先端部の油膜内で生じるポンプ作用によって、主リップしゅう動面に噛み込んだ異物は密封側(=ユニット内部側)へ流れていく作用が働くため、主リップしゅう動面への噛み込みは抑制されることとなります(図2)。しかし、異物量が多ければ密封側(ユニット内部側)へ流されずに主リップしゅう動面に止まり続けるリスクは高くなります。
②について、異物サイズが大きいほど、噛み込みが生じた際における軸摩耗の発生リスクは高くなります。特に、主リップ先端部の油膜厚さ(一般的に数μm~十数μm程度の厚さ)よりも大きい異物が噛み込んだ場合には、ポンプ作用によって密封側(=ユニット内部側)に流されずに噛み込み状態を維持するリスクが高くなるため、軸摩耗の発生リスクも高くなります。
③について、高硬度の異物ほど、噛み込みが生じた際における軸摩耗の発生リスクは高くなります。特に軸表面の硬度よりも硬い異物が噛み込むことで、異物側は削れにくく軸側が摩耗しやすい状態となるため、軸摩耗の発生リスクは高くなります。

図2 ポンプ作用による異物の流れ
2. 主リップのゴム硬度または緊迫力ゴム硬度が高い
オイルシールの主リップゴム硬度が高い、または緊迫力が高い状態となることによって、軸摩耗が発生するリスクは高くなります。
一般的には、熱負荷などによって主リップにゴム硬化が生じ、それに伴って主リップ緊迫力が大きく上昇するケースが多く見受けられます。ゴム硬度が90(A)以上まで硬化し、さらに主リップにしめしろが残留している場合には、主リップ緊迫力が新品時の数倍程度までアップするといったケースも珍しくありません。主リップのゴム硬度アップによってゴム材は削れにくくなり、緊迫力アップによって軸への摩擦力が上昇することで、軸摩耗の発生リスクは高くなります。
3. 軸表面の硬度が低い
そもそも論ですが、軸表面の硬度が低い(=焼き無しなど)場合は、軸摩耗が発生するリスクが高くなります。
上記1, 2にも通ずることですが、軸表面の硬度が低いことで、主リップしゅう動面への異物噛み込みや主リップゴム硬度/緊迫力がアップした際、異物側&主リップ(ゴム)側が摩耗しにくくなり、軸側が摩耗しやすい状態となるからです。一般的にオイルシールメーカーでは軸表面硬度が30HRC以上が推奨されており、清浄な環境下であれば軸表面硬度は特に問題とはなりません。しかし、主リップ先端への異物噛み込みやゴムに硬化が生じる環境下での使用であれば、50HRC以上の軸表面硬度が推奨されています。
関連記事
以下の関連記事についてもご参照下さい。
【記事】【メーカー研究者執筆】オイルシール漏れ要因まとめ – MOKUオイルシール
【記事】オイルシールのゴム硬化要因と密封性への影響 – MOKUオイルシール
【記事】【メーカー研究者執筆】オイルシールのポンプ量増加方法 – MOKUオイルシール
【記事】オイルシールの密封メカニズム(ポンプ作用) – MOKUオイルシール
【記事】オイルシールのグリース密封メカニズム(ポンプ作用有無) – MOKUオイルシール
本記事内容をご覧いただき、興味を持たれたり、『もっと詳細を知りたい』等と感じましたら、お気軽にお問い合わせよりご連絡をお願いいたします。
【ご参考1】熱電対付きオイルシールについて
当方では、オイルシールの主リップ先端温度を直接的に測定することができる”熱電対付きオイルシール”の製作を請け負っています。お客様で保有するオイルシールを当方へ送付いただき、熱電対を主リップ先端のゴム中に加工し、納品とさせていただきます。オイルシールのメーカーは問いません(どのメーカーでも対応いたします)。熱電対の+/-を表記した状態で納品いたしますので、お客様では熱電対をロガーに接続いただくだけで主リップ先端温度の測定が可能となります。
【ご参考2】オイルシールの現品調査について
当方では、オイルシールの現品調査を請け負っています。お客様より調査対象となるオイルシール(希望される場合は軸も)を送付いただき、詳細調査を実施し、密封性を有する状態かを考察(漏れが発生している場合は漏れ原因を推察)して調査レポートを提出させていただきます。オイルシールのメーカーは問いません(どのメーカーでも対応いたします)。現品調査を実施し、オイルシールメーカーの研究部/品質保証部と同様の視点で見解・考察を提示させていただきます。

