【メーカー研究者執筆】オイルシールのリップ温度と軸粗さの関係
オイルシールのリップ温度
別記事において、オイルシールの各種ゴム材には使用最高温度があると紹介しました。オイルシールを使用する際、最も温度が高くなる箇所はリップ先端であることから、『リップ先端温度≦ゴム材の使用最高温』の状態を維持しながらオイルシールを使用し続ける必要があります。『リップ先端温度>ゴム材の使用最高温度』の状態で使用してしまうと、リップ先端のゴムに硬化やクラック、スラッジ固着といった、オイルシールの密封性能低下に繋がる不具合モードが生じるリスクは高くなります。
本記事では、リップ先端温度と軸(シャフト)粗さの関係性ついて解説します。
軸(シャフト)粗さとは
軸(シャフト)粗さとは、加工表面の微細な凹凸の程度を数値化したものであり、一般的にRa/Rzの値で表されます。単位には『μm(マイクロメートル)』が用いられ、Ra/Rzは以下を意味します。
●算出平均粗さ(Ra):測定区間Lにおいて、基準線(中心線)からの偏差の絶対値をすべて足し、その合計を測定区間 Lで割って平均化したもの
●最大高さ粗さ(Rz):測定区間における最も高い「山」と、最も深い「谷」の合計値
Raは平均値であることから全体的な粗さを評価したい場合に用いられ、Rzは最大凹凸の高さであることから主に突発キズなどを評価したい場合に用いられます。リップ先端温度の指標としては、Raを指標とする方が望ましいです。
リップ先端温度と軸粗さの関係性
一般的にオイルシールメーカーによって推奨されている軸粗さは以下となります。
●Ra:0.1~0.32μm
●Rz:0.8~2.5μm
上述の通り、リップ先端温度の指標としてはRzよりもRaの方が適しています。ここで、軸粗さRaとリップ先端温度の関係を図1に示します。

図1 軸粗さRaとリップ先端温度の関係(イメージ)
軸粗さRaが推奨範囲より外れた場合に生じるリップ先端温度への影響について以下に解説します。
軸粗さRa>0.32μmの場合
軸粗さRaが推奨値上限である0.32μmを超えていくと、軸表面の凸部がリップ先端(ゴム)に直接的に接触することで摩擦係数が上昇し、軸回転時の抵抗は大きくなります(図2)。軸とリップ先端との間に介在する油膜は十分に保持できていますが、物理的に軸表面とリップ先端との接触が増すことによってリップ先端温度としては高くなります。また、リップ先端温度が高くなることに加えて、リップ摩耗幅も進行する傾向にあります。

図2 軸粗さRa>0.32μm
軸粗さRa<0.10μmの場合
軸粗さRaが推奨値下限である0.10μmを下回っていくと、軸表面とリップ先端(ゴム)との間に介在する油膜が減少することで摩擦係数が上昇し、軸回転時の抵抗は大きくなります(図3)。鏡面仕上げレベルで軸粗さが小さく、油膜が減少した状態で運転を続けると、運転条件やオイルシール設計にもよりますが、油膜が枯渇することによって著しくリップ先端温度が高くなることがあります(軸表面にテンパーカラーが出現するほどに高温となることもあります)。また、リップ先端温度が高くなることに加えて、リップ摩耗幅の著しい進行(しめしろを喪失するレベル)やスティックスリップなどが発生することもあります。

図3 軸粗さRa<0.10μm
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本記事内容をご覧いただき、興味を持たれたり、『もっと詳細を知りたい』等と感じましたら、お気軽にお問い合わせよりご連絡をお願いいたします。
【ご参考1】熱電対付きオイルシールについて
当方では、オイルシールの主リップ先端温度を直接的に測定することができる”熱電対付きオイルシール”の製作を請け負っています。お客様で保有するオイルシールを当方へ送付いただき、熱電対を主リップ先端のゴム中に加工し、納品とさせていただきます。オイルシールのメーカーは問いません(どのメーカーでも対応いたします)。熱電対の+/-を表記した状態で納品いたしますので、お客様では熱電対をロガーに接続いただくだけで主リップ先端温度の測定が可能となります。
【ご参考2】オイルシールの現品調査について
当方では、オイルシールの現品調査を請け負っています。お客様より調査対象となるオイルシール(希望される場合は軸も)を送付いただき、詳細調査を実施し、密封性を有する状態かを考察(漏れが発生している場合は漏れ原因を推察)して調査レポートを提出させていただきます。オイルシールのメーカーは問いません(どのメーカーでも対応いたします)。現品調査を実施し、オイルシールメーカーの研究部/品質保証部と同様の視点で見解・考察を提示させていただきます。

