【メーカー研究者執筆】ねじ付きオイルシールのポンプ量UP理論

ポンプ作用の重要性

オイルシールは、オイル(油)をシール(密封)するために使用する機能部品であり、密封メカニズムはポンプ作用によってオイルが大気側へ漏れることを抑止しています。ポンプ作用を定量化した値を”ポンプ量”と呼び、基本的に「ポンプ量が多い=高い密封性能を有する」と考えるため、できる限りオイルシールのポンプ量が増加する仕様・環境・条件を構築することで漏れのリスクを軽減することができます。
ポンプ量を増加させる方法の一つとして、ねじ付きオイルシールがあります。
本記事では、ねじ付きオイルシールを用いることでポンプ量がUPするメカニズムについて解説します。
※ねじ付きオイルシールの種類とメリット・デメリットについては、別記事『ねじ付きオイルシールの種類と性能』を参照下さい。
※ポンプ量を増加させる方法の一覧については、別記事『オイルシールのポンプ量増加方法』を参照下さい。

ねじ機能によるポンプ量UPメカニズム

まず、ねじの付いていないプレーンシールについて、ポンプ作用は適切なオイルシールの形状設計により、主リップしゅう動面の面圧分布を適正化(=オイル側に面圧のピークが立つ)することで生じます(図1)

図1 ポンプ作用(プレーンシール)

ただし、オイルシール形状設計に依存する『面圧分布の適正化』で生じるポンプ作用はもともとの絶対量が小さく、オイルシールでは制御不可となるユニット使用条件(周速・圧力・油粘度など)や軸の表面粗さによるポンプ量の変動が支配的となることで、ポンプ量が不安定となります。低周速・高圧力・低粘度油となるほどポンプ量は低減し、密封性能が不安定となります。
そこで、ポンプ量の絶対量を底上げする手法として、ねじ付きオイルシールがあります。主リップにねじを設けることによって、ユニット使用条件や軸の表面粗さがポンプ量にとって不利な状況下であったとしても、オイルシール形状設計(=ねじ)によるポンプ量が支配的となるため、安定したポンプ量を維持することができます。
ここで、プレーンシール(=ねじ無しシール)とねじ付きシールにおける主リップしゅう動部と軸との接触状態を以下に示します(図2)

図2 主リップ接触状態(左:プレーンシール、右:ねじ付きシール)

軸が回転すると、主リップしゅう動部の近傍にあるオイルも軸回転方向と同方向に移動します。その際、ねじ付きシールであればオイルがねじの傾斜部に衝突し、傾斜に沿って主リップしゅう動部へ流れ込んでいきます。その勢いのままオイルが主リップしゅう動部を通過して『大気側→オイル側』に移動することでポンプ量は飛躍的に向上することとなります(図3)

図3 ねじ付きシールのオイルの流れ

上記のようにポンプ量を飛躍的に向上させることによって、仮にオイルが大気側に幾分か漏れた場合であっても、強力なポンプ作用によって素早くオイルを『大気側→オイル側』に引き戻すことが可能となります。従って、「ポンプ量が多い=高い密封性能を有する」と考えることができます。

ねじの設計差によるポンプ量への影響

ねじ機能によるポンプ量UPメカニズムは上述した通りですが、ここではねじ設計について解説します。
同じようなねじ付きオイルシール同士であっても、わずかなねじの設計差によって生じるポンプ量には明確な差が生じます。
ポンプ量に影響するねじ設計の主要因は以下3点となります。
 ① ねじ本数:本数は多いほどポンプ量UP ※ただし、ねじピッチが過度に小さいとねじ接触状態に悪影響を及ぼし、逆に密封性能が低下する。
 ② ねじ角度:角度は小さいほどポンプ量UP ※ただし、ねじ角度が過度に小さいとねじ接触状態に悪影響を及ぼし、逆に密封性能が低下する。
 ③ ねじ高さ:ねじ高さは大きいほどポンプ量UP ※ただし、ねじ高さが過度に大きいとねじ接触状態に悪影響を及ぼし、逆に密封性能が低下する。
できる限りねじ本数を多くしたり、ねじ高さを大きくするために、オイルシールメーカーでは創意工夫を行って設計しています。例えば、ねじ本数を多くすることを考えた場合、パーフェクトシール(両方向等高ねじ)の正方向・逆方向のねじを主リップ円周上で何等配に設定すべきか、といった疑問が出てきます。その際、等配数を振ったオイルシールを準備してポンプ量データを取得し、さらに軸回転時における主リップ周辺のオイルの流れを可視化するなどによって、ポンプ量データとそのメカニズムの整合性を確認した上で最終決定をしています。

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【ご参考1】熱電対付きオイルシールについて

当方では、オイルシールの主リップ先端温度を直接的に測定することができる”熱電対付きオイルシール”の製作を請け負っています。お客様で保有するオイルシールを当方へ送付いただき、熱電対を主リップ先端のゴム中に加工し、納品とさせていただきます。オイルシールのメーカーは問いません(どのメーカーでも対応いたします)。熱電対の+/-を表記した状態で納品いたしますので、お客様では熱電対をロガーに接続いただくだけで主リップ先端温度の測定が可能となります。

【ご参考2】オイルシールの現品調査について

当方では、オイルシールの現品調査を請け負っています。お客様より調査対象となるオイルシール(希望される場合は軸も)を送付いただき、詳細調査を実施し、密封性を有する状態かを考察(漏れが発生している場合は漏れ原因を推察)して調査レポートを提出させていただきます。オイルシールのメーカーは問いません(どのメーカーでも対応いたします)。現品調査を実施し、オイルシールメーカーの研究部/品質保証部と同様の視点で見解・考察を提示させていただきます。