【メーカー研究者執筆】オイルシール緊迫力の温度依存性
緊迫力の構成
オイルシールの緊迫力とは、主リップ先端を回転運動するシャフトに押し当てる力(荷重)のことであり、オイルシールの密封性能や耐久性能に直結するため、リップ設計を行う上での最重要検討項目の一つとなります。緊迫力は、ゴム成分/ばね成分で構成されており、一般的にいう緊迫力とは両者の和のことをいいます(図1)。これらゴム成分/ばね成分の緊迫力にはそれぞれ役割があり、正確に理解していなければ、両者の設定値に不備が生じることによってオイルシールのパフォーマンスを十分に引き出せなくなってしまう可能性があります。ここでは、ゴム成分/ばね成分の緊迫力に関する温度依存性について詳しく解説します。

図1 緊迫力の構成
主リップ緊迫力の温度依存性
主リップ緊迫力は、ゴム成分/ばね成分の和で構成されているのは上述の通りです。両者の温度依存性については以下の明確な違いがあります。
●ゴム成分:温度が高くなるほど低下する。
●ばね成分:温度が高くなっても変化しない。
ここで、あるオイルシールの主リップ緊迫力の温度依存性を調査した結果を示します(図2)。

図2 主リップ緊迫力の温度依存性
グラフにおける『ゴム成分+ばね成分』を見ると、室温時(25℃)では15Nあったものが温度上昇に伴って低下し、140℃では9.8N(35%減)となっています。また、『ゴム成分のみ』を見ると、室温時(25℃)では9.4Nあったものが温度上昇に伴って低下し、140℃では4.4N(約53%減)となっています。両者のグラフを比較すると、温度上昇に伴ってほぼ平行に緊迫力は推移(低下)していることから、両者の緊迫力低下量(絶対値)は同等であることが分かります。さらに、『ばね成分のみ』を見ると、温度上昇に伴ってほぼ変化しておらず一定であることから、温度影響を受ける(=温度依存性がある)のはゴム成分のみであることが分かります。
ただし、上記結果はある一種類のオイルシールの例であり、ゴム種や主リップ設計などが変化すれば傾向も変化します(『温度依存性があるのはゴム成分のみ』であることは変わりませんが、低下量などの数値が変化します)。各々のオイルシールで測定を行うことによって、温度依存性(何℃で何Nの緊迫力を保持しているか)を把握することができます。
緊迫力の温度依存性を受けて考慮すべきこと
上述した通り、主リップ緊迫力においてゴム成分のみが温度依存性を有しています。この結果を受けて、オイルシール設計を行う上で懸念事項に対して考慮すべき事案の一例を以下に記載します。
事例:主リップ先端温度の上昇を懸念する場合
周辺温度が高い環境下や高速条件下などでオイルシールを使用する場合、主リップ先端温度の過度の上昇が懸念点となります。そこで、通常は主リップ緊迫力を低下させる(ゴム成分/ばね成分を問わず)ことが対策の一つとして挙がりやすいのですが、さらにもう一歩踏み込んだ対策として緊迫力構成の調整があります。上述の図2で解説した通り、温度上昇に伴ってゴム成分の緊迫力が低下する(ばね成分は低下しない)ため、緊迫力構成として『ゴム成分をアップ(ばね成分のDOWN)』することによって高温下での緊迫力を意図的に低下させて、主リップ先端温度の過度の上昇を抑制することができます。
この緊迫力構成の調整によって、常温下では緊迫力を高く保持することで密封性能を高めつつ、高温下では緊迫力を低下させて主リップ先端温度の過度の上昇を抑制し、ゴムの硬化劣化を防止するといった働きが可能となります。
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本記事内容をご覧いただき、興味を持たれたり、『もっと詳細を知りたい』等と感じましたら、お気軽にお問い合わせよりご連絡をお願いいたします。
【ご参考1】熱電対付きオイルシールについて
当方では、オイルシールの主リップ先端温度を直接的に測定することができる”熱電対付きオイルシール”の製作を請け負っています。お客様で保有するオイルシールを当方へ送付いただき、熱電対を主リップ先端のゴム中に加工し、納品とさせていただきます。オイルシールのメーカーは問いません(どのメーカーでも対応いたします)。熱電対の+/-を表記した状態で納品いたしますので、お客様では熱電対をロガーに接続いただくだけで主リップ先端温度の測定が可能となります。
【ご参考2】オイルシールの現品調査について
当方では、オイルシールの現品調査を請け負っています。お客様より調査対象となるオイルシール(希望される場合は軸も)を送付いただき、詳細調査を実施し、密封性を有する状態かを考察(漏れが発生している場合は漏れ原因を推察)して調査レポートを提出させていただきます。オイルシールのメーカーは問いません(どのメーカーでも対応いたします)。現品調査を実施し、オイルシールメーカーの研究部/品質保証部と同様の視点で見解・考察を提示させていただきます。

