産業用ロボット/減速機向けオイルシールの漏れ原因動向
産業用ロボット/減速機の潤滑動向
産業用ロボットにおいて、動作箇所には駆動源(サーボモーター)と減速機構(減速機)が設けられており、減速機やアーム部にはオイルシールが装着されています。近年の動向として、減速機の伝達効率を高めて出力トルクをアップするため、軸受/オイルシールなどのトルク損失を最小限に抑える要求が高まっています。その要求に対応する一つの手法としてグリースの低粘度化があり、ロボット・減速機メーカーにて低粘度グリースの採用が進みしつつあります。
低粘度グリースが与えるオイルシールへの影響
産業用ロボットのアームは”低速・揺動”といった特有の挙動を繰り返しながら運転するため、当然オイルシールのシャフトも同様の挙動をすることとなります。グリースの低粘度化により、オイルシールにとっては以下1点のメリットはありますが、アーム特有の挙動(低速・揺動)によって、”油膜”という要素のデメリットが色濃く表れてしまいます。
【メリット】
・グリースせん断時の抵抗が下がることで、主リップ先端の発熱が抑制される
【デメリット】
・主リップ先端の油膜厚さが低減する(低速・揺動運転のため、もともと油膜厚さが低減しやすい仕様)
・グリース流動性が良くなることで、減速機内グリースがオイルシール部に多量に流れ込んでくる…漏れリスクの上昇
低粘度グリース特有のオイルシール漏れ現象
上記デメリットの”主リップ先端の油膜厚さが低減する”によって、オイルシールのグリース漏れリスクが上昇します。これは、産業用ロボットのアーム挙動(低速・揺動)と低粘度グリースが重なることで生じる特有の漏れ現象です。漏れメカニズムは以下の2パターンがあります。
【漏れメカニズム(パターン①)】
1. 主リップ先端の油膜厚さが低減する(潤滑性低下)
2. 主リップしゅう動面に面あれが発生する
3. 主リップしゅう動面とシャフトとの接触状態が悪化する
4. グリース漏れが発生する
【漏れメカニズム(パターン②)】
1. 主リップ先端の油膜厚さが低減する(潤滑性低下)
2. 主リップにスティックスリップ(振動・ビビリ)が発生する(図1)
3. 主リップ先端とシャフトとの間に瞬間的な隙間が発生する
4. グリース漏れが発生する

図1
上記漏れメカニズムは、産業用ロボットに低粘度グリースを採用したことによる背反事象です。両メカニズムに対して適切な対応策をとることで、漏れを抑止・軽減することができます。当方は、ロボットメーカー様と協力して低粘度グリースの漏れメカニズムの究明と、対応策の考案・効果検証を実施し、低粘度グリースに適用するオイルシールの設計技術を確立しました。
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